エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社
(取材日:2021年10月12日)
DX人材育成で広がるキャリアとビジネスの好循環。「学びのトリセツ」とメンター制度で知識の定着と心の支援を実現。社内エバンジェリスト(伝道師)でつなぐ人材のバトンリレーでオフィスや店舗のデジタル化とデジタル人材育成へ好発進!
DX人材を育成して、「コミュニケーションリテイラー」へ
エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社は、グループビジョン「『楽しい』『うれしい』『おいしい』の価値創造を通じ、お客様の心を豊かにする暮らしの元気パートナー」を掲げ、顧客とのダイレクトな接点開発と継続的な関係深化をはかるビジネスモデル「コミュニケーションリテイラー」を推進しています。トレノケートはコミュニケーションリテイラーを実現する上で、核となるDX人材の育成を2020年より支援しています。
お客様 会社概要
今回お話を伺った皆様
執行役員IT・デジタル推進室長
小山 徹様
IT・デジタル推進室
コーポレートIT推進グループ
コーポレートIT企画部長 兼
プラットフォーム改革推進部長
右田 拓也様
IT・デジタル推進室
コーポレートIT推進グループ
コーポレートIT企画部
坂本 尚紀様
IT・デジタル推進室
IT・デジタル戦略部
田中 紀行様
↑ページの先頭へ戻る
DX人材育成への取り組みの背景と課題
コミュニケーションリテイラー
-コミュニケーションリテイラーについてお聞かせください。
-
小山様:
- 私どもは、関西を中心に百貨店(阪急阪神百貨店)、食品スーパー(イズミヤ、阪急オアシス、カナート)を展開しています。リテイラーというと「物売り」の印象を受けますが、そうではなく、一人ひとりのお客様との双方向のコミュニケーションを通じて、価値・商品・サービスを提供することを意味しています。リアルの店舗をもっている私どもだからこそ、お客様に「楽しい」「うれしい」「おいしい」を提供できます。リアル店舗とデジタルを融合したお客様との新しい関係を作り、お客様のマインドシェアNo.1とマーケットシェアNo.1を同時に実現していきます。そのためには、オフィスや店舗のデジタル化とデジタル人材の育成は不可欠であり、喫緊の課題でした。
↑ページの先頭へ戻る
コミュニケーションリテイラーを推進していく人材
お客様が好き、小売りが好き
-百貨店の店頭で販売等を担当していた方を今回、IT人材として育成することにしたそうですね。
-
小山様:
- そうなんです。阪急阪神百貨店 山口社長の協力を得て、百貨店の店頭で活躍していた若手数名をエイチ・ツー・オーリテイリングのIT部門に配属してもらいました。コミュニケーションリテイラーになるということは、例えば、お客様データベースを活用して、お客様自身が認識されていない潜在的なニーズを満たすような「モノ」や「コト」を提供していけることです。このような潜在的ニーズを考えることができるのは、大前提としてお客様が好きで、小売りが好きなメンバです。そのようなメンバがITやDXの知見を持てば、お客様の心をつかむことができるのではないでしょうか。現在、弊社は、「デジタイゼーション」、「デジタライゼーション」、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の3つを並行して進めています。これまでのIT部門は限られたリソースで活動してきましたが、ITやデジタルの分かる人材を増やす必要が生じたのです。
一人ひとりがエバンジェリスト(伝道師)となるよう目指して
-どのような人材を育成しようとお考えでしょうか。
-
小山様:
- やらなければならないことが山のようにあります。重要度・緊急度の高いものから着手するため、現場からのすべての要求に対応することは難しいです。そうすると、現場と交渉したり、時に説得したりする能力も必要になります。また、現行業務を動かしながら、新規システムはクラウドを前提に進めることで、古いシステムをどんどんリプレースしていくといったアジャイルなスキルも必要です。IT・デジタルの世界は、次々と新技術が登場してきます。それをいろいろと試してみようという好奇心も大事ですね。そして、経営層の言葉を理解し、ITへ翻訳し、きちんとシステムをデザインしていく能力など、非常に幅広いものを求めています。
-
右田様:
- 必要な人材は、将来の絵姿を作り、現業も大切にし、いかにして現場を将来に導いていくのか、この3つのことを意識し実行できる人です。小売りの現場経験があり、IT・DXの知見もある人が、場合によっては売り場に戻りながら、そこでエバンジェリスト(伝道師)としてIT・デジタルの推進をしていくことが目指したい姿です。
-
小山様:
- IT部門で育つ人材は、業務の全体感、各業務のつながりやその裏側で動いているITも理解できるようになります。今後は、百貨店事業のデジタル部門や売り場へ行って、どういう問題が起こっているのか、それはシステムの問題なのかどうかを判断できるようしていきたいです。いわば、社内におけるコンサルタントのような役割ですね。
↑ページの先頭へ戻る
研修の成果と課題
ハンカチ売り場からIT・デジタル部門へ
-2020年に研修を受講した田中様、坂本様は、ITとはまったく異なる部署から異動されたそうですね。研修受講のご感想は?
-
田中様:
- 私は、阪急阪神百貨店の博多阪急でハンカチ等の服飾品を担当していました。IT部門への異動直後は、何をするのか分からず、不安でした。しかし、今は、お客様の行動や属性データを活用し、裏方としてお客様の「楽しい」「うれしい」をどうやって実現するかを考えているとワクワクします。また、百貨店事業だけに頼っていては、難しいということも認識しました。今後は、グループ全体を俯瞰し、グループとしてのメリットを活かすことを考えていきたいと思います。
-
坂本様:
- 私は、阪急阪神百貨店の宝塚阪急で催事の企画・運営を担当していました。コロナ禍で取引先が誘致できないなど、なかなか思うようにいかない状況でした。ITを学びたいと考えていたわけではなかったのですが、今回の異動は、良い機会と思いました。IT担当と言えば、テレビで登場するITエンジニアのように、一日中、パソコンの前で、カタカタとキーボードを叩いているイメージでした。研修を受けてみたら、想像していたものとずいぶん異なりました。研修では、プロジェクトの進め方や、要求を正しく理解してシステムに反映させるといったことも学びました。人の想いをくみ取ってシステムに反映させることは、これまでの自分の経験を活かすことができると感じました。
また、受講したメンバの多くは、研修前はお客様向けサービスであるRemo Order*(リモオーダー)のようなシステムに携わりたいと希望がありましたが、研修を経てシステムの裏側の仕組み・システム間の関連を知りたいと言うようになりました。一方で、研修によってはIT初心者にとって、実際の業務との関連性が分かりづらいといった声も上がっていました。
*阪急百貨店で取り扱っている商品を、ご自宅や外出先から、スマートフォンでご注文できるリモートショッピングサービス。
「学びのトリセツ」とメンター制度で知識と心の支援
-2021年度は、トレノケートから、研修前後の支援策として、「学びのトリセツ*」とメンター制度をご提案しました。こちらの活用はいかがでしたか。
*「学びのトリセツ」とは、研修効果を高めるためのトレノケート独自のツールです。研修前後の働きかけにより、学習効果の最大化を図り、職場への転移と学んだことの定着を促進します。
-
坂本様:
- 私も含めて2020年に研修を受けた人が2021年度の受講者のためのメンター役になりました。研修終了後毎回、受講者数名とメンターの1名が交代で、「学びのトリセツ」を使って振り返りを行いました。この振り返りの会を通じて、知識面の支援ができました。2021年の受講者も、私たちと同様に店頭で働いていた者ばかりです。中には、IT部門に異動し研修を受ける日々、しかもテレワーク環境の中で「何も生み出せていなくて苦しい」という真情を吐露する人もいました。そこでメンターが受講者と週1回 1on1を2カ月間にわたって行い、心情面で寄り添い支援をしました。
-
田中様:
- メンターを担当して、良かったことが2つあります。1つ目は、ITに対して、他の人がどう感じているかを知ることができ、視点を増やす機会になりました。2つ目は、人の話を聴くトレーニングになりました。上の役職に上がった際に、メンバの話を傾聴するといった時に役立つと思います。
-
小山様:
- このように先輩からのフォローは、売り場でも自然に行われていることです。弊社の文化ですね。
-
右田様:
- 2020年度に受講したメンバが、翌年度に研修事務局やメンターとなって前年に感じた課題を解決しようと努力していました。そんな中、今回、売り場でお客様の笑顔を見ながら活躍してきたメンバが、コロナの影響もあり店頭に立つことなくオンラインで研修を受ける日々に変わったことで、事業に関われていることを実感できない、そんなことに不安を覚えることが分かりました。このことは、今後に向けた育成の課題の一つです。
参考:「学びのトリセツ」の表紙には、エイチ・ツー・オー 荒木社長の言葉を代弁して小山様から受講者へ次のようなメッセージが書いてあります
ご受講の皆様へ
皆様は何才からスマホを使っていますか?今や一日スマホを見ないで過ごせますか?スマホやPC無しに日常生活を送れますか?
~中略~
そのような中でコミュニケーションリテイラーとしてエイチ・ツー・オー リテイリングの全体方針である「リアル店舗とデジタルを融合したお客様との新しい関係づくり」を実現するため、オフィスやお店のデジタル化とデジタル人材の育成は不可欠であり喫緊の課題と認識しております。本プログラムを通じて、受講者各位がデジタル人財の基礎力をつけて、昭和な環境を令和にアップデートする戦力になって弊社を変革していくチェンジエージェントになってもらえたら幸甚です。一人一人がつながって受講者全体でレベルアップ出来るよう理解を深めて下さい。
広がるキャリアとビジネスの好循環
-
小山様:
- 今回、研修を受けたメンバの今後のキャリアとして、IT部門で業務とITの仕組みを理解して管理職になる、あるいは、現場に戻って現場の声を聞いて売り場を変えながら、そこでプロジェクトマネージャーになるといった道もあります。IT・DXの知見がキャリアの幅を広げます。ビジネスの面では、店頭で一人が売れる数は限られますが、デジタルを活用することでその10倍、100倍も売ることができます。
↑ページの先頭へ戻る
今後の展望
2025年大阪・関西万博の開催までにDX実現を目指して
-
小山様:
- 今後は売り場だけでなく、例えば、グループ会社を統括する人事、経営企画、財務部門の横串を通していくことで、大きな飛躍が期待できます。2025年大阪・関西万博が開催されますが、その時までには、IT基盤はクラウド、ゼロトラストモデルを目指したネットワーク、従業員はモバイルでの業務環境、そしてDXの実現といったことを適える予定です。
私たちがコミュニケーションリテイラーとしてお客様とつながり、お客様に「楽しい」「うれしい」「おいしい」を提供し、その結果ビジネスが拡大するという好循環が回っていくことを期待しています。
↑ページの先頭へ戻る
トレノケートへの評価と期待
ITとビジネススキルの両方を提供
-今回の人材育成で、トレノケートを選択していただいた理由と今後期待されることをお聞かせください。
-
小山様:
- トレノケートは、ITの他にAMA*のコンテンツなどビジネススキルの研修を提供しています。弊社は、ITだけができる人が欲しいわけではありません。ITもビジネスもできる人が欲しいのです。この点が大きな決め手です。また、弊社と同業企業での研修実績もありました。この2点でトレノケートを選択しました。
*AMA (American Management Association)は世界有数のグローバル人材育成コンサルティング組織。
フレキシビリティ
-
小山様:
- トレノケートに期待するのは、フレキシビリティです。既存の研修コンテンツをそのまま提案されても、弊社の全てのニーズを満たせません。だからと言って、完全にカスタマイズをしてもらうと費用が高くなります。この両者の中間あたりで、ニーズと予算に合わせた提案を今後も期待しています。
↑ページの先頭へ戻る
提供研修
トレノケートは、エイチ・ツー・オー リテイリング様と打ち合わせを重ねて、IT部門に関わる方が外部ビジネスパートナーなどとも協力しながら、ビジネス価値を高められるようになることを目指し、研修の提案・実施を行いました。
研修のポイントと全体像
- IT、コンサルティング、企画、上流工程、プロジェクトマネジメント
- エバンジェリストとして必要なスキル(クリティカルシンキング、ヒアリング、プレゼンテーション、交渉スキル等)
- 配属後、学習した内容を実践できるよう演習中心
分野 |
研修概要 |
IT |
アプリケーションにおけるネットワーク、データベース、プログラムの関係性を、手を動かして理解を深める。特にデータベースとSQLは配属直前で学習することで、配属後の活用を期待する。 |
コンサルティング |
エバンジェリストとして活躍するための課題解決の基本的な方法を学習する。クリティカルシンキング、ヒアリング、プレゼンテーション、交渉スキルといった基本スキルは、スキル実践研修前に学習し、実践機会を通じた定着を図る。 |
IT企画・上流工程 |
IT企画・要求定義・基本設計の流れで学習する。IT企画・要求定義についてはメンバとマネジャー共通学習項目とし、共通言語化を狙う。スキル実践研修では、ユーザー企業の課題と現行業務の改善提案を行うことで、配属後の業務イメージを掴むことを期待する。 |
プロジェクトマネジメント |
プロジェクトの立ち上げから終結までの必要な業務・成果物を学習する。スキル実践研修では案件報告から問題を見抜くためのレビュー力について、ケース課題を用いて学習する。 |
提供コース
2021年、一社向け研修として一部のコースを除いてオンラインで提供しました。
(全17コース、29日間)
↑ページの先頭へ戻る
編集後記
トレノケート株式会社
人材教育シニアコンサルタント
田中淳子
売り場の最前線で接客していた方たちにとって、今回の人事異動とITの学習には抵抗があったのではないかと考えていました。しかし、取材の場で、田中様、坂本様ともにいきいきと楽しそうに学びと気づき、今後の展望を語ってくださいました。一線でお客様と接し、小売りに対して強い想いと経験のある方たちが新しくITという武器を得て、今後、さまざまな場で活躍される、その一部のお手伝いができたことを嬉しく思います。
また、短期間でここまで進めてこられたのは、小山様、右田様のパッションと力強いサポートによるものと感じます。
今後もこのプロジェクトは続きます。弊社は、引き続き、よりよい人材育成のプログラムをご提供し、エイチ・ツー・オー リテイリング様のDX人材育成に伴走します。
↑ページの先頭へ戻る
ご質問、お問い合わせはお気軽に!
公開コースのお申し込み方法やご利用方法、一社向けでのご活用など、まずはお問い合わせください。
お問い合わせ